2026年5月末に結婚式を終えて、それまでの半年間の準備から解き放たれ、どうしようかと考えていたところ。転職候補先の1つとして医療関連の情報システムを扱う職種・企業を考えており、業界について、関連資格を通じて勉強しよう、と思った。ちょうど、そのときおよそ2か月後に医療情報技師の試験があることを知り、受けることを決意。2026年8月23日に受験し、10月1日に合格発表があった。合格者発表欄には自分の受験番号があり、無事合格できてほっとしている。勉強する過程で得た気づきを振り返る。
なぜ受けたか
前述したように、関心を持っている領域の1つに、医療×ITがある。ただ、医療は現職のバックオフィス関連の業務システムと比べると、より特有のルールと要件が多い印象で、転職する前に勉強して、自分が本当にこの領域に興味があるのか、検証したいと思った。医療情報技師に受かるための勉強くらいはおもしろがってやれないと厳しいだろう、と考えたがの受けた理由。
学習方法について
Claude CodeとAnkiを活用し、集中的に学習する
医療情報技師試験の勉強は、過去問を中心に行った。7年分ほど演習し、医学・医療系に関しては10年分解いた。その過程でClaude Codeで自分専用の学習デッキを作り、Ankiで反復した。
Claude Codeは、例題やオリジナル問題を気軽に増やせて、かつAnkiに簡単に連携できて便利だ。だいたい、過去問を3,4年分解くと、「この領域は頻出だな」と思う問題に出会う。ただ、頻出と分かっても解けないことがあった。そこで、理解できていない領域を見つけたら、Claude Codeに角度を変えたオリジナル問題を作らせていた。たとえばDPCの提出データの問題は、答えがHファイルやEファイルだと分かっていても、問題文の書き方が違ったり、逆向きに問われたりすると分からなかったため、問題を作って理解を補強した。

勉強中に読んだ本、観た映像
学習中には医療に関わる本を主にAudibleで聴き、関連記憶領域を脳内に作るように努めた。「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、医師が登場する回を観るなどした。
- 『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』山本健人(ダイヤモンド社)
- 『すばらしい医学 あなたの体の謎に迫る知的冒険』山本健人(ダイヤモンド社)
- 『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』大竹文雄・平井啓 編著(東洋経済新報社)
- 『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』出口治明(講談社現代新書)
- 『図解入門ビジネス 最新 医療費の仕組みと基本がよ~くわかる本[第6版]』伊藤哲雄・森田仁計・小野田昭弘(秀和システム新社)
学びを言語化する
学んで印象に残った点を言語化してみる。
医療に関わる情報システムは2種類ある
勉強して個人的に整理できたのは、医療に関わる情報システムには2種類がある、ということ。システムによっては両者を内包するものもあれば、一方しか保有しないものもあると思う。
- 医療行為を理解して作るシステム。例:内視鏡検査のシステム、病理検査のシステム
- 国の制度を理解して作るシステム。例:医事会計システム(診療報酬の算定や請求に関わる)
前者は、その医療行為がどういうものかを理解して作る。医療内容に特化したシステム。後者は、純粋に医療行為のために必要なわけではなく、医療行為に報酬を払うために必要なシステムである。
商品マスターを国が決めるのが日本の医療
普段の業務で、販売管理システムに触れることがしばしばあるが、その機能に例えると、日本の医療は、商品マスターを国が決めているようなものなのだな、と認識。販売管理システムでは商品マスターを自分たちで作るが、日本の保険診療では、国がその内容も価格も決定する。審査支払機関が公開している基本マスターによると、下記のような件数(2026年10月時点)になる。
| マスター | 件数 |
|---|---|
| 医科診療行為 | 11,835件 |
| 医薬品 | 19,272件 |
| 傷病名 | 27,684件 |
これらが2年ごとの診療報酬改定で大きく変わるのである。改定の間も随時更新されている。
医療という行為は、本来は制度と関係なく成り立つ。ただし、標準医療を通じて、報酬をもらうには国の制度に則らないといけない。医療行為と制度を接続して、それをシステムにする。医師の側も、医療のプロでありながら、制度を理解したうえで医療をしなければならない。ここに、医療サービスの複雑性があるなと思う。
診療報酬制度を通じ、国が医療提供の望ましいあり方を決めている
国が医療サービスの内容と価格を決め、かつ2年ごとにその改定が行われる。ざっくり言うと、そのときの見識に基づいて、国が導きたい医療サービスのあり方に近づけるために、変更される。
ものすごく単純化して記述するが、増やしたい方向には点数をつけ、減らしたい方向は点数を下げるか、加算を廃止する、ということをする。たとえば、急性期の病床が増えすぎれば、手厚い看護配置の入院料の要件を段階的に厳しくして減る方向に働かせる。退院後の受け皿が足りなければ、そのための病棟の入院料を新設する。
保険診療を行う病院やクリニックは、診療報酬制度を通じて金銭を得るわけだから、意識せざるを得ない。普通の私企業に置き換えてみると、自分たちではなく、他者によって提供可能なサービスの内容や価格を決められるようなものである。素朴に、自分たちで決められないのは大変だ、ということを思う。
DPC/PDPSの仕組み ― 医療資源を無駄遣いせず、適切な質の医療を提供する
急性期の入院の支払い方式であるDPC/PDPS(以下、DPC)は医療情報技師試験でもよく出るテーマであり、日本の医療制度の中でも特徴的なものの一つなのだと思う。外来やクリニックの診療は、やった分だけ点数がつく出来高が基本だが、DPCはそれと違い、報酬額の計算を定額で行う。大まかにいうと、下記のような仕組み。
- 病名と治療内容の組み合わせごとに、入院1日あたりの点数が決まっている
- 入院が長引くほど、1日あたりの点数は3段階で下がる。2つ目の区切りは全国の平均在院日数(2026年度改定から、標準化が進んだ分類では在院日数の中央値)
定額払いなので、病院側には無駄な医療サービスを行うインセンティブが働きにくい。本来であれば要らない医療サービスを何度も重ねることによって稼ぐ、ということはできない。加えて、だらだら医療行為を長引かせて、長く入院させて稼ぐ、ということもしづらくなっている。長引くほど稼げる金額は減るわけだから、患者を長く抱えようとするインセンティブもない。そのため、早く治して早く退院させるほど経済的に有利、ということになる。経済学部出身の自分は、医療機関側のモラルハザードを防ぐために考えられた仕組みだな、と思った。点数の区切りは全国の病院の実績から決まるので、各病院は全国平均と競わされる。ここもしっかりしていると思った。
ただし、この制度にならって報酬をもらうための事務手続きは煩雑である。実際にやった診療の明細は、出来高に換算して全部データで出す必要がある。DPC用の提出様式は色々あるのだけど、ざっくりいうと、請求はまとめる一方で、医療サービスに関わった内容は細かく見せる、という感じ。
まだ私の頭ん中でスッキリしきれていないところもある。DPCは全部が定額ではなく、手術など出来高で算定する医療行為もある。そこは過剰にならないのか、防ぐ仕組みが必要だろうな、と認識している(DPC制度に限った話ではないが)。
今の業務システムのエンジニアリングが通ずる部分が医療ITにはありそう
自分は業務システムのエンジニアとして働いてきた。私の携わる業務システムは、データを入れて、判断して、加工処理して、出力するというのが大きな流れである。医療現場のシステムも他システムとの連携が多く、いわゆる業務システム感覚と一定近い部分もあるなと思った。また、業務システムにある統制・監査要件は、医療情報システムにも当然求められるな、ということも問題を通じて認識した。「誰がいつ何をしたかを後から追えるようにする」ことや、電子保存の三原則(真正性・見読性・保存性)など。
また、医療のデータ連携にはかなりレガシーなイメージがあったが、国の方向としては、HTTPとJSONでやり取りする規格を推している、というのも気づきだった。国は今、病院やクリニックが紹介状や退院時サマリー、病名・アレルギー・薬の情報などを登録し、別の医療機関が患者の同意のもとで閲覧できる全国の仕組み(電子カルテ情報共有サービス)を整備している。この仕組みが採用している規格がHL7 FHIRで、HTTPとJSONなどでやり取りする。さらに、2026年3月に公表された診療所や中小病院向けの電子カルテの標準仕様書では、クラウドネイティブであることと標準APIを備えることが要件になっている。現職で、固定長からCSV、Web APIまで扱ってきた身としては、連携の形としてWebベースの流れがあるのは望ましいなと思った。
ここでいうクラウドネイティブとは、厚労省の資料の説明を借りると、クラウドの特性・メリットを最大限に活用するために、クラウド上で動作することを前提として設計・開発されたシステムのこと。標準仕様書では具体的に、クラウド上で動く全てのアプリケーションがSaaS型であること、1つのシステムを複数の医療機関で共同利用するマルチテナント方式であること、ソースコードが全ての医療機関で共通であることを求めている。医療機関ごとのカスタマイズとオンプレミスで高コストになっている構造を、共同利用に切り替えて安くする狙いがある(厚生労働省「電子カルテの普及について」2026年3月12日、医科診療所向け 電子カルテ及びレセプトコンピュータ 標準仕様書(基本要件)第1.0版)。
情報技術者も医療サービスの提供を支える責任感を持つ
医療情報技師試験は「医学・医療系」「情報処理技術系」「医療情報システム系」の3科目からなる。医学・医療系では、例えば高校生物でやったような血液循環の流れや、検査の感度・特異度の計算、診療録を何年保存しなければならないかといった法律のようなことが問われる。意地悪に言えば、今の現場にシステムを入れるだけなら、医学・医療の問題は必要ないのかもしれない。では、なぜ情報技術者も医学・医療を学習するのか。それは、医療がどのような性質のサービスなのか、理解するためかなと思う。もっと言えば、医療サービスの提供プロセスに携わるという責任感を持つためだ。医療行為は、その結果によって、患者の心身に不利益を生じさせることがある。不適切な医療サービスが行われることを防ぐため、注射や輸血の実施時に患者と薬剤をバーコードで照合する認証や、処方時のアレルギー・用量のチェックのように、安全確認をシステムが担う部分もある。医療行為を支えるシステムに関わるなら、その影響と責任を理解するためにも、必要な学びなのかなと思う。
おわりに ― 医療現場にITを導入していく難しさは、試験で扱わないところにあるだろう
医療情報技師試験を通じて、日本の診療報酬制度の仕組みや、医療、医療情報システムの概観を学んでいくことはできる一方で、医療現場にITを導入していく難しさは、試験で扱わないところにあるだろうな、という感想も抱いている。
例えば、医療に限った話でもないが、実際の現場は、情報システムを導入・運用設計できるリーダー人材がいない、お金が足りない、時間が足りない、そういった状況が多いと思う。ノートパソコンがサーバー代わりになっているような病院もあると聞く。そういった中で、情報システムを導入していくこと。医療事業者側にも、ITベンダー側にも難しさがあるはずだ。今回の勉強で分かった気にならずにいたいと思う。
付録:勉強中に個人的に印象に残った点
上記とは別で、学習していて「へー」となった点を下記にまとめる。
医学・医療
- 同じ病気で入院しても、病院によって費用が違う。入院基本料は、看護職員をどれだけ手厚く置いているかで点数が変わる。しかも人を置くだけでは足りず、重症の患者を実際にどれだけ診ているかも条件になる。ちゃんとなってるなと思った。
- 透析関連の問題が多く、透析治療の大変さを認識。透析は週3回、1回4時間ほど。腎臓の働きは基本的に戻らない。原因の1位は糖尿病性腎症。生活習慣には気をつけようと思った。
- 病床の機能は、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つに分かれている(2027年度から「回復期」は「包括期」に変わる予定)。単位は病院ではなく病棟。DPCの「早く退院」が成り立つのは、退院後の受け皿があるから。
- 脾臓は移植しない。取っても生きていけるので、移植の負担を負う理由がない。肝臓は逆で、一部を切っても残りが大きくなって戻る。だから親から子へ一部を提供できる。
医療情報システム
- 救急のシステムは、患者IDが決まる前に動かせないといけない。身元不明でも診療は始まるので、仮のIDで始めて、後から正式なIDと統合する。業務システムはマスターが先にある前提で作るから、なるほどとなった。
- 画像・映像周りのIT技術は医療で使い道が多い。CT、超音波、内視鏡。IVRのように、画像を見ながら治療するものまである。
- DPC対象病院じゃないのに、DPCのデータを出す病院があるのだが、この意味が最初は分からず...。「DPC」が分類・支払い方式・データの形式の3つを指していることを理解できていなかった。支払いは出来高のまま、データだけDPCの形式で出す病院がある。データ提出加算の対象になるため。このデータを基に、医療内容の統計がとられ、制度設計などに使われていく。
- DPC対象病院だけが出すのはDファイル。定額で請求した内容そのものになる。
- 医療には、データを渡し合うための共通の決まりがある。規格そのものがHL7やDICOMで、場面ごとにそれをどう組み合わせて使うかの手引きがIHEの統合プロファイル。HL7の新しい世代(FHIR)はHTTPでやり取りするので、そこまで行けばWebの業務システムとあまり変わらないな、という印象。
- SS-MIX2というは、電子カルテの中身をHL7 v2の形式でフォルダに溜めておく「標準化ストレージ」。義務ではないが、大病院では事実上の標準となっているらしい。患者ID、日付、データ種別の順にフォルダを掘り、処方や検査結果を1件1ファイルで置く。DBではなくフォルダなので、電子カルテのメーカーが変わっても読める。地域連携や研究用データベースもこれを読めばよい、ということになる
- 診療報酬制度の改定が、医療ITベンダーへの需要に影響する。例えば、2026年度の改定で新設された電子的診療情報連携体制整備加算は、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへの対応といった要件をすべて満たせば初診時15点、いずれか一つなら9点、基本要件だけなら4点。国は規格を法律で強制せず、対応した医療機関に点数をつける。対応を目指せば、医療ITベンダーに依頼しながら進めていくことになる。
- 同じ薬にコードが何種類もある。値段を決める用(薬価基準収載医薬品コード)、銘柄を区別する用(YJコード)、請求用(レセプト電算処理システム用コード)、流通用(JANコード)。それらをつなぐのがHOTコード。制度がドメインに入り込むと、概念が増える。


